GIOVANNI BATTISTA VIOTTI

イタリア北西部の小村フォンタネット・ポに生まれ、フランス革命期前後のパリとロンドンにおいてヴァイオリン演奏で一世を風靡し、近代ヴァイオリン奏法の父といわれるジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティの生涯を紹介する。


(32)ヴィオッティのヴァイオリン

  ヴィオッティの演奏法は生徒や弟子たちに引き継がれていったが、そのヴィオッティ派の演奏の特長について、ドイツからの特派員は、「大きく、力強く、豊かなトーンと心に染みる美しいレガートが特徴である。 多様性、魅力、光と陰、これらが極めて変化に富んだ弓使いを通して演奏の中に一体化されている」と報告している[1]。 このような新しい音の美しさや深み、力強さは、改良されたヴァイオリン構造に起因すると指摘する者もあった。 ヴィオッティの演奏を聴いた者は皆ストラディヴァリウスで演奏したくなったという。 ストラディヴァリはヴィオッティが現れる前は単なる一メーカーであったが、ヴィオッティが推奨したおかげで、ストラディヴァリのヴァイオリンはたちまち普及した。 ヴィオッティはストラディヴァリのヴァイオリンの普及に一役買っていたといえる。

  1824年にヴィオッティが死んだ後、遺言によりマーガレット・チネリーが受け取ったわずかな遺産の中に1712年のストラディヴァリのヴァイオリンがあった。 このヴァイオリンは1824年にフランスのオークションで売られたが、その姿はストラディヴァリのヴァイオリンの経歴を紹介する本『Violin Iconography』に記録されている[2]。
  一方、ヴィオッティがパリ時代からロンドンで死ぬまで使っていたといわれる1709年のストラディヴァリのヴァイオリンが2002年にロンドンに現れた。 80年近く秘蔵していたスコットランドの貴族ブルース家が相続税を納める代わりに”物納”することになった。 納税には140万ポンドが必要とされていた。ヴァイオリンの価値は350万ポンドと見積もられ、オークションにかければその2倍以上になると考えられた。 しかし、ブルース家はこのヴァイオリンが英国内に残ることを希望し、英国内の資金団体もサポートを表明し、英国王立音楽アカデミーは2005年3月末の期限までにこのヴァイオリンを引き取る資金を調達することができた。 210万ポンドの値引きを承知したプルース家の好意に応えるため、このヴァイオリンには新しい名前「ヴィオッティ・エクス・ブルース」が付けられた。 このヴァイオリンは英国王立音楽アカデミーのヨーク・ゲートにある展示場に展示されている。 このヴァイオリンを紹介する記事によると、1824年にヴィオッティが死んだ後、パリのオークションで1万ポンドで売られ、3人目の所有者として1928年にブルース家に渡った[3]。 したがって、1712年と1709年の2つのヴァイオリンがオークションに出たことになる。 実際、ヴィオッティの遺言書を読むと、「2つのヴァイオリン」が残されていて、そのうちの一つは「ストラディヴァリのヴァイオリンで、優れた楽器である」とヴィオッティ自身が言い残している。 したがって。これが今度発見されて”ヴィオッティ・エクス・ブルース”と名付けられた1709年のストラディヴァリウスであろう。

  ヴィオッティがフォンタネット・ポにおいて使ったと思われるヴァイオリンが1997年にフォンタネット・ポのサン・マルティノ教会で発見された。 それは最悪の状態に壊れていたが、フォンタネット・ポ村はフィエーゾレ(フィレンツェの北東8キロにある都市)にあるリザード・アカデミーに復元を委託した。 フィレンツェにある楽器復元を専門とするこのアカデミーにおいてファンファーニ教授により2001年7月に復元され、その年の8月にフォンタネット・ポ村に返還された[4]。 フォンタネット・ポでは9月3日にヴァイオリンが所蔵されているサン・マルティノ教会においてヴァイオリンの復元を記念するコンサートを開いた。 グイード・リモンダの指揮とヴァイオリン独奏、オーケストラはカメラータ・ドゥカーレでヴィオッティの『ヴァイオリン協奏曲16番ホ短調』と『ヴァイオリンとオーケストラのための瞑想曲』が演奏された。 この曲の演奏はヴィオッティの時代を除けば初演となる演奏であった。

参考文献
[1] Allgemeine musikalische Zeitung, July 3, 1811.
[2] H.K. Goodking, Violin Iconography of Antonio Stradivari 1644-1737, p.421 (1972).
[3] J. Dilworth, The Strad, pp.24-30 (2006).
[4]
菊池修 ”ヴィオッティ” 慧文社 (2009).
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