GIOVANNI BATTISTA VIOTTI
イタリア北西部の小村フォンタネット・ポに生まれ、フランス革命期前後のパリとロンドンにおいてヴァイオリン演奏で一世を風靡し、近代ヴァイオリン奏法の父といわれるジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティの生涯を紹介する。
(28)ヴィオッティの作品
ハイドンは104曲の交響曲を作曲しているが、ロンドン・セットと呼ばれる最後の6曲は1791―94年に作曲されている。
モーツァルトの交響曲は後期39―41番が1788年に作曲されている。
また、ベートーヴェンの交響曲第1番は1800年に初演されている。
このことから、交響曲は前期古典派ともいえる2人の巨匠から後期古典派ともいえるベートーヴェンの交響曲へと発展していく過程が年代的には読み取ることができる。
弦楽四重奏曲についても同じようなことがいえよう。
ピアノ協奏曲はモーツァルトの27曲のピアノ協奏曲自身が18世紀後半のピアノ協奏曲の発展の過程を表している。
最後の8曲(20―27番)は1785―91年に作曲されていて、ベートーヴェンの最初のピアノ協奏曲が1795年に作曲されたことから、モーツァルトからベートーヴェンへのピアノ協奏曲の音楽的・年代的な繋がりも納得できる。
ヴァイオリン協奏曲に関しては事情が大きく異なる。
ハイドンのヴァイオリン協奏曲は1760年代に作曲され、モーツァルトの5曲は1775年に作曲されている。
1806年のベートーヴェンの有名なヴァイオリン協奏曲に繋がるには内容的にも時間的にも離れすぎていよう。
実際、ヴァイオリン協奏曲に関しては、18世紀後半からベートーヴェンにいたるまでには、ヴァイオリン協奏曲を着実に発展させた多くの作曲家がいた。
その中でヴィオッティとその弟子たちによるフランス派の活躍が突出していた。
1800年を挟んで前後各20年の間にヴァイオリン演奏でヨーロッパの主導権を握っていたのはこの楽派であった。
パリではヴィオッティのヴァイオリン協奏曲とその演奏に触発され、多くの若いヴァイオリニストたちに新しい時代に向かう活気が生じてきた。
ヴィオッティの29曲のヴァイオリン協奏曲は1780(?)―1804年頃作曲された。
最初の10曲は、1曲はパリ到着以前に作曲されたものであるが、それも含めてヴィオッティがコンセール・スピリチュエルで演奏した曲である。
続く11―19番は後期パリ協奏曲グループであるが、ヴェルサイユ宮廷やテアトル・ド・ムッシューでの演奏のために作曲された。
そして最後の10曲はロンドンで作曲されたグループに入る。
ヴィオッティのヴァイオリン協奏曲は、その内容と構成が年代とともに充実しており、この時代のヴァイオリン協奏曲の発展を内包している。
ギャラントスタイルから始まり、より内面的で表情に富んだ様式を見せるようになる。
音に魂を与え、その音楽は聴く者の感情を揺さぶる。第21〜24番はすでに初期ロマン派の傾向が表れている傑作である。
ヴィオッティの協奏曲では、演奏技巧を高めるために新しく様々な要素が取り入れられ、主題の展開が完成されていった。
コンサートの大衆化と規模の拡大に即してオーケストラ編成が大きくなっている。
ヴィオッティはソナタ形式とフル編成オーケストラをヴァイオリン協奏曲に適用した最初の人である。
古典的協奏曲の中に、楽しさだけではなく真剣さと新しい表現領域を取り入れた点においては、ヴィオッティの29曲のヴァイオリン協奏曲は、ピアノ協奏曲におけるモーツルとの27曲に相当すると位置づけられよう。
ヴィオッティの作品をまとめた資料として、最初の主題作品目録がプージャンの伝記本の中に見られる。
1888年に出版されたもので、20ページあまりの中にヴァイオリン協奏曲29曲、6曲のヴァイオリン・ソナタ2セット、二重奏曲、三重奏曲、四重奏曲などを紹介しているが、今日の研究結果から見れば不完全であるのは無理も無いが、先駆的な仕事である。
1956年に出版されたジャゾットの主題作品目録は現代的な目録である。
プージャンに比べるとずっと多くの作品を取り上げており、全ての楽章の冒頭部分を掲載していて、各作品に番号付けを行っている。
最も充実している目録はチャペル・ホワイトにより1985年に出版されている。
この目録では各作品に対して主題作品目録番号、タイトルと楽器編成、作曲年代と場所に関する情報、自筆譜の存在、筆写譜、印刷楽譜の出版情報、編曲などを網羅し、全ての楽章の冒頭部分を掲載している。
ホワイトはヴィオッティ研究家としての第一人者として知られており、1957年の『ヴィオッティとそのヴァイオリン協奏曲』と題する博士論文は先駆的な研究である。
ピエモンテ地方の音楽研究で著名なアルベルト・バッソが編集した事典の中に、ニューグローブ世界音楽大事典以上に詳しくヴィオッティが紹介されていて、そこに作品がまとめられている。
ヴィオッティの作品の全貌を見るのに適している。
参考文献
菊池修 著 ”ヴィオッティ” 慧文社 (2009).
R. Giazott, "Giovan Battista Viotti", Cruci (1956), pp.289-368.
C. White, "Giovanni Battista Viotti: A thematic catalogue of his works", Pendragon Press (1985).
A. Basso, ed. "Dizionario Enciclopedico Universale della Musica e dei Musicisii, Le Biografie", UTET (1985-1990), vol.8, pp.257-263.
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