GIOVANNI BATTISTA VIOTTI

イタリア北西部の小村フォンタネット・ポに生まれ、フランス革命期前後のパリとロンドンにおいてヴァイオリン演奏で一世を風靡し、近代ヴァイオリン奏法の父といわれるジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティの生涯を紹介する。


(21)ウィリアムとマーガレット・チネリー夫妻

  ヴィオッティは、1792年7月にロンドンに渡り、到着してまもなくウィリアム(William Bassett Chinnery)と マーガレット(Margaret Chinnery)のチネリー夫妻と知り合いになり、強い友人関係を結び、ほとんど家族同然の生活をすることになる。 マーガレットとは特に信頼し合う仲となり、夫のウィリアムやチネリー家の子供たちとも極めて良好な関係を保っていた。 ヴィオッティの死はマーガレットに看取られている。
  チネリー家はサフォーク州で1620年ごろから続いた家系である。この一家には肖像画家として東洋で活躍したジョージ・チネリー (George Chinnery)がいた関係で、その家系が詳しくまとめられている。チネリー家の第5代目、マドラス商人・ウィリアムは 東インド会社の商人としてカッダロール地方で衣料品を作る工場を経営していた。7人の子供を持ったが、7人のうちの6番目が ポートレート画家としてインドや中国で活躍したジョージであった。長男のウィリアム・テリーが生まれて1年を待たずに死んだため、 次男のバセットがウィリアムを名乗った。ウィリアム・バセット・チネリーは1766年生まれ、家族の家はロンドンのホルボーン地区 フリート通り近くのゴフ広場にあった。大蔵省の役人で昇進は早く、1783年の12月には17歳で書記補となっていた。 1790年10月にブロムトンの紳士レオナルド・トレジリアンの長女であるマーガレットと結婚し、カベンディッシュ・スクエアの モーティマー通り5番地に新居を構えた。翌年双子の子供、長男ジョージ・ロバート(George Robert/画家のジョージ・チネリー と混同しないよう)と長女キャロライン(Caroline)が誕生した。1793年には3番目の子ウォルター・グレンフェル(Walter Grenfell)が 生まれた。この夫妻がヴィオッティと親しい間柄となるチネリー夫妻である。
  チネリー夫妻はモーティマー通り5番地の家で1794年から定期的に音楽パーティーを開始した。 マーガレットはピアノ演奏に優れていて、ウィリアムはチェロを弾いた。この音楽会は毎週開催され、多くの声楽家や器楽奏者が出演した。 フェリクス・ヤニェヴィチ、ヨハン・ペータ・ザロモン、ムツィオ・クレメンティもこのプライベート・コンサートに出演した。 豪華な食事が用意されたこともあり、音楽家たちにとって魅力的な催しであった。ヴィオッティはこのコンサートでマーガレットの企画の 助言者となり、同時に目玉となる出演者となった。ヴィオッティは1794年の慈善演奏会でのチケットを ミドルセックス病院のチャールズ通り16番地で販売していたが、そこはモーティマー通り5番地のすぐ近くであった。
  チネリー一家は1792年にマーガレットの父親からロンドン郊外のギルウェル・パークの土地家屋を相続し、夏にはギルウェル・パークで過ごしていた。 1796年に子供達の教育のためモーティマー通りの家を引き払ってギルウェルに生活の拠点を移した。 マーガレットの夫ウィリアムは、一時モティマー通り39番地に移り、その後アデルフィのデューク通り3番地に家を借り、 週末をギルウェル・パークで過ごす生活となった。 時代は変わりつつあったが、ジェントリーにとって週末をロンドン郊外で過ごしたり、まして田舎に住むことは通常ではなかった。
  ヴィオッティは1797年頃からワインの貿易商を始めたといわれている。1797年の1月から1798年3月まではワイン商人のスミス氏と共に、 アデルフィのデューク通り3番地で生活をしていた。1796年にヴィオッティが公共の場での演奏活動をしていないが、 ワイン商の準備のためではないかとも考えられている。当時のアデルフィのデューク通りは現在ではジョン・アダム通りと名前を変えており、 デューク通り3番地は現在のジョン・アダム通り27番地に当たる。ここはウィリアム・チネリーがロンドンでの根拠としていた住所でもある。 ヴィオッティはウィリアムと同様に週末はギルウェル・パークでチネリー一家と共に過ごした。

1790年代のアデルフィ地区デューク通り。
ヴィオッティがワイン貿易で根拠にしていたデューク通り3番地は
バッキンガム通りとの角から2軒目、現在のジョン・アダム通り27番地。

バッキンガク通りから見たジョン・アダム通り。手前から2軒目の
黒い建物が27番地で1790年代当時のデューク通り3番地。
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