GIOVANNI BATTISTA VIOTTI
イタリア北西部の小村フォンタネット・ポに生まれ、フランス革命期前後のパリとロンドンにおいてヴァイオリン演奏で一世を風靡し、近代ヴァイオリン奏法の父といわれるジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティの生涯を紹介する。
(3)ヴィオッティの生家
フォンタネット・ポの村役場の広場から出たところにマッシモ・モンタノ大通りがあって、そこから北に伸びる「ヴィオッティ通り」は両側がアーケード状になっている。
その路地を80mほど行った左側の建物の壁に、そこにヴィオッティが住んでいたことを示すプレートが掲げられている。
それは大理石で作られていて、「この家で、1755年5月12日に、ヴァイオリニストのジョヴァンニ バッティスタ ヴィオッティが生まれた。勤労者組合、1891年7月21日設置」と刻まれている。
地図(Map of Fontanetto Po)
イタリアでは国家が統一された1861年以降、労働者の相互扶助協会が各地に誕生した。
フォンタネット・ポの「勤労者組合」はそのような団体で、職人と農夫からなる労働者互助組合であったろう。
すなわち、このプレートは村当局が設置したものではない。
1891年にフォンタネット・ポの住人たちによってこのプレートが掲げられたわけであるが、ヴィオッティが死んでから約70年、パリやロンドンで華々しい活躍していたときからは100年も後のことである。
このプレートが設置されたのは1891年7月21日で、そのときにはフォンタネット・ポにはすでにヴィオッティ一家の痕跡は残されていなかった。
この家の地番は現在の「ヴィオッティ通り23番地」であり、この家の二階がヴィオッティの生家として認められている。
現在はヴィオッティとは関係のない人が住んでいるため、中の様子はわからないが、プレートが埋められている建物の下の部分はアーケードから奥に突き抜けていて、ヴィオッティの父親が鍛冶屋の仕事場としていた名残が窺われる。
ヴィオッティの誕生年が長い間誤って1753年5月23日と伝えられており、プレートが掲げられた1891年当時、フォンタネット・ポの人たちもこのことには気付いていなかった。
これが誤りであることが発見されたのは1935年であった。
したがって、1891年に23番地の家に掲げられたプレートには当初間違った生年月日が書かれていたはずである。
実際にプレートをよく見てみると、数字を訂正した跡がはっきりと認められる。
これは当時ジュゼッペ・ルザーニという名の若き司祭が、誤りが発見された後迅速に対応して訂正したものである。
一方、近年になって「ヴィオッティ通り23番地が生家であるという結論がどのようにしてだされたのか不確かである」、という疑問がフォンタネット・ポ住民のロメオ・ブスネンゴ氏から出されている。
ブスネンゴ氏はロマーナ・ライナ氏と共同でフォンタネット・ポ村の古文書を調べていて、1699年の土地台帳を追跡調査した。
そこにはジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティの曽祖父にあたるアンドレア・ヴィオットという人が現在のヴィオッティ通りに家を所有していた記録を見つけた。
この記録にはアンドレア・ヴィオットの家の四方の状況が記述されていて、東は中央通り(現在のヴィオッティ通り)、南はカパネットの相続人の家、西はフランチェスコと兄弟の家、北は城壁の壁、と記述されている。
これに相当する場所は、現在のヴィオッティ通りとサン・ロッコ通りの角地、ヴィオッティ通り49番地であると結論した。
この場所はヴィオッティの父親の職業である鍛冶屋にとっても都合のよい場所である。
それというのもこの場所はフォンタネット・ポ村長のネポーテ氏の説明によれば、「城壁に囲まれた居住地に外部からやってきた人はその入り口付近に馬を止めて休ませるため、馬の蹄鉄修理には都合のよい場所である」。
ヴィオッティ通り49番地には鍛冶屋が必要とする釜などが残されていることと、鍛冶屋には都合が良い場所であること、ヴィオッティの曾祖父が所有していた家であること、など根拠が示されている。
これに対して、23番地を生家にした根拠は見当たらない、とブスネンゴ氏は述べる。
しかしながら、伝聞に基づいた結論だとしても、1891年に村の人々の記憶の中から出た結論であり、当時としてはその信憑性は高く、フォンタネット・ポの人たちの総意であったことに違いない。
ヴィオッティの生家はヴィオッティ通り23番地と認められてきたが、この問題の決着は難しい。
村長のネポーテ氏もブスネンゴ説に賛同しており、2006年にはヴィオッティ生誕250周年を記念するプレートを村の名において49番地の家に掲げた。
ヴィオッティ通り49番地の家
参考文献 菊池修、”ヴィオッティ”、慧文社(2009).
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