GIOVANNI BATTISTA VIOTTI
イタリア北西部の小村フォンタネット・ポに生まれ、フランス革命期前後のパリとロンドンにおいてヴァイオリン演奏で一世を風靡し、近代ヴァイオリン奏法の父といわれるジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティの生涯を紹介する。
(1)故郷フォンタネット・ポ村
ヴィオッティが生まれたフォンタネット・ポ(Fontanetto Po)はイタリア北西部のピエモンテ州ヴェルチェッリ県に属し、トリノから50キロ程東方に位置する人口1200人程の小さな村である。
ピエモンテはイタリア語で「山の麓」という意味で、スイス、フランスとの境のアルプス山脈の麓を指している。
現在のピエモンテ州は大まかに言えば、クネオ、アレサンドリア、ノヴァラの町を結ぶ線より北西部で、スイスとフランスの国境にいたる地域を指し、その中心都市はトリノである。
ヴェルチェッリは18世紀後半にはイタリア最大の米の産地として急速に発展して人口が急増し、この時代最も注目された都市のひとつであった。現在でもこの地方はヨーロッパの穀倉地帯として大量の米を生産している。
ヴェルチェッリ市はミラノとトリノを結ぶ主要な鉄道路線のほぼ中間に位置しているが、フォンタネット・ポはこの路線の駅ではない。
ミラノからフォンタネット・ポに汽車で行くには、まずトリノ行きの列車に乗る。
1時間半でトリノの一つ手前のキバッソ駅で降り、アレサンドリア行きのローカル線に乗り換える。
キバッソとアレサンドリアを結ぶ列車は概ね1時間に1本の割合で出ていて、7つ目の駅フォンタネット・ポ駅に25分で到着する。
畑の真ん中にあるプラットフォームに茶色いレンガ造りの四角い駅舎が置かれた駅で、駅舎に大きくFONTANETTO POと書かれている。
駅前の様子は、日本の地方の小さな駅よりも小さく商店はない。この駅はフォンタネット・ポ村の南西部に位置している。
鉄道の駅から村の中心までは300m程度と近い。
村の旧中心部は約300m四方で囲まれた範囲に収まっていて、13世紀に城壁の中に村がつくられた形跡が残されている。
村で最も広い通りは東西に走るマッシモ・モンタノ通りである。その南側のガリバルディ広場に村役場がある。
マッシモ・モンタノ通りの北側が旧住居区域で、中央の南北に走る通りに「ヴィオッティ通り」の名前がづけられている。
このヴィオッティ通りをマッシモ・モンタノ通りから入って80mほど行った左側にヴィオッティの生家がある。
商店街はマッシモ・モンタノ通りにあり、銀行、タバコ屋、雑貨屋、小さなスーパーマーケット、バールが2軒、パン屋などがある。ヴィオッティ通りには商店は少ないが、ポスト・オフィス、薬局、ケーキ屋などがある。フォンタネット・ポ全体でレストランは3軒ある。そのうちの「Agriturisumo Le Aie」は宿泊施設も兼ねている。
地図(Map of Fontanetto Po)
フォンタネット・ポの街は小さいが、古く13世紀には現在の建物のほとんどが作られ、趣のある街並みとなっている。
鉄道駅から徒歩で5分、街の中央に村役場を中心に古い建物が並ぶ。その中で特に印象に残る建物は教会である。
イタリアの多くの町がそうであるように、教会が町の最も重要な建物となっている。
現在の教区教会はサン・マルティノ教会で、ヴィオッティ国際フェスティバルでのコンサートがここで開かれた。
「Fontanetum」のラテン語の意味は「無数の泉がある」とされている。
フォンタネット・ポでは、この泉は灌漑用水として水田にきれいな水を提供していて、市街地の中にも用水路が縦横に張りめぐらされている。
この資源のおかげで、フォンタネット・ポ周辺はヴェルチェッリ地方でも稲作に最も条件がよい。
すらりとした鐘塔を中心とした小さな街を一歩出ると、一面が稲穂に覆われ、関東平野のような広々とした水田が広がる。
街の中心から車でほんの5分くらい南に行ったところ、一面の水田を抜けたところにポー川が流れている。
遠くアドリア海へと注ぐポー川の源流である。夏の川岸では家族連れが水浴を楽しんでいる。
川に面した雑木林では乗馬を楽しむ人が集まって休暇を楽しんでいる。
水田を流れる小川では昔ながらの水車を使って精米が行われている。
気持ちが自然とゆったりとしてきて、都会の雑踏を忘れさせ、なんだか時間の流れがやけに遅い。
ポー川の方から村を望むと、広い畑の向こうに遠く村の象徴であるサン・マルティノ教会の鐘塔が見える。
この風景は大変のどかで、ヴィオッティが最初に作曲したといわれているヴァイオリン協奏曲第3番の出だしの部分の曲想にぴったりの風景といえる。
美しい田園地帯を楽しむために、自転車を借りて水田の間を行くことができ、公園地域にあるポー川で一日を過ごすこともできる。
ポー川方面から村を望む
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